# 介護職が個人事業主になるには?手続き・税金・メリットをやさしく解説
「介護の経験を活かして、雇われずに稼いでみたい」「業務委託や保険外の話も聞くけど、開業とか税金とか難しそう」——そんな気持ちでこのページを開いた方も多いと思います。
「個人事業主」と聞くと、大きな決断のように感じますよね。でも実際の手続きは紙1枚。今の職場を辞めなくてもなれます。
この記事では、介護職が個人事業主になる手続きを、税金や保険の変化までやさしく解説します。読み終わるころには、「自分は今、出すタイミングか」を判断できるはずです。

副業が増えてきたけど、個人事業主って何?私にも関係あるの?手続きが難しそう…。

税務署に紙を1枚出すだけでなれます。メリットも注意点も、順番にかみくだいて解説しますね。
結論:開業届1枚(費用0円)でなれる。会社を辞める必要もない
最初に結論からお伝えします。
介護職が個人事業主になる手続きは、税務署に開業届を1枚出すだけです。 開業届とは、「自分で事業を始めました」と国に知らせる届け出用紙のこと。費用は0円で、審査も面接もありません。
しかも、開業は「退職」とセットではありません。雇われたまま出す「副業の個人事業主」というなり方もでき、収入の柱を残したまま試せます。
とはいえ、全員に今すぐ必要な紙ではありません。開業届が活きるのは、主に次のような人です。
- 副業の収入が育ってきた人(ライター・講師・保険外の手伝いなど、雇われない形の収入が続いている)
- 登録ヘルパーの経験を活かし、業務委託や保険外サービスで本格的に稼ぎたい人
逆に、副業をまだ始めていないなら、開業届は早すぎます。単発バイトアプリの収入は「給与」なので、開業届とは関係がありません。まずは副収入をつくる経験から始めても、遅くないです。
この記事の要点は、次の3つです。
- 開業届は費用0円・紙1枚。事業を始めた日から1ヶ月以内に出すのが原則(遅れても罰則はなし)
- 雇われたままでも出せる。専業にならない限り、保険や年金は今のまま変わらない
- 一緒に青色申告承認申請書を出すと、最大65万円の控除(税金の計算から差し引ける金額)が使える
それでは、順番に見ていきましょう。
そもそも個人事業主とは?会社員との違いをやさしく解説
個人事業主は「自分ひとりでお店を開いた人」
個人事業主とは、会社に雇われず、自分の名前で仕事を請けて収入を得る人のことです。イメージは「自分ひとりでお店を開いた人」。店舗も従業員もいりません。
たとえば、ラーメン屋の店主、自宅でネイルサロンを開く人、フリーのカメラマン。全員が個人事業主です。介護の世界なら、保険外の家事支援や通院付き添いを個人で請け負う人がこれにあたります。
法律上は「会社をつくらずに商売をする個人」のこと。その始まりを税務署に知らせる紙が、開業届です。
会社員(雇われ)との違いは「お金の流れ」
いちばんの違いは、お金と税金の流れ。表で見比べてみましょう。
| 会社員・パート(雇われ) | 個人事業主 | |
|---|---|---|
| 収入の形 | 給料(給与所得) | 売上−経費=もうけ(事業所得) |
| 税金 | 職場が天引き・精算してくれる | 自分で確定申告する |
| 経費 | 原則使えない | 仕事に使ったお金を差し引ける |
| 保険・年金(専業の場合) | 職場の社会保険 | 国民健康保険+国民年金 |
| 有給・残業代・労災 | ある | ない |
| 時間と単価 | 職場が決める | 自分で決める |
ひとことで言えば、会社員は「守られているぶん、自由が少ない」。個人事業主は「自由なぶん、守ってくれる人がいない」。優劣ではなく、性格の違いです。
「フリーランス」「自営業」とはどう違う?
似た言葉を整理します。
- 自営業: 自分で商売をしている人を指す、日常のざっくりした言い方
- フリーランス: 会社に属さず、仕事ごとに契約する働き方を指す言葉
- 個人事業主: 税金の世界での正式な区分。開業届を出して事業をする個人
つまり、「フリーランス介護士」を税金の面から呼ぶと「個人事業主」。働き方や仕事の実例は、別記事でくわしく解説しています(フリーランス介護士とは)。
「介護の業務委託」と個人事業主の関係
個人事業主として稼ぐには、「雇われない形の仕事」が必要です。介護業界でその入り口になるのが、業務委託と保険外サービスです。
業務委託とは「雇われずに仕事を請け負う契約」
業務委託とは、会社に雇われず「この仕事をお願いします」という契約で働く形のことです。上司と部下ではなく、対等な関係で仕事を請けます。
たとえば、介護業界にはこんな業務委託の仕事があります。
- 保険外(自費)の生活支援サービスの訪問スタッフ
- デイサービスの体操教室・レクリエーションの外部講師
- 介護施設の研修講師、介護系サイトの記事執筆(ライター)
「給与」か「売上」かは、契約の形で決まる
ここが、この記事でいちばん大事なポイントです。同じ仕事でも、契約の形で税金上の扱いがまったく変わります。
| 契約の形 | 例 | 税金上の扱い |
|---|---|---|
| 雇用契約 | 施設のパート、登録ヘルパー(多くの場合)、単発バイトアプリ | 給与所得。個人事業の売上にはならない |
| 業務委託契約・個人契約 | 保険外サービスの請負、講師、ライター | 事業の売上になる |
特に注意したいのが、単発バイトアプリの収入は「給与」だという点です。アプリの仕事は1日ごとの雇用契約なので、開業届を出しても事業の売上にはなりません。
訪問介護の登録ヘルパーも、多くは事業所に雇われるパート契約です。その時給(身体介護で1,500〜2,500円程度)は給与として扱われます。一方、保険外サービスを業務委託や個人契約で請け負えば、それは事業の売上です。
業務委託で働くときの注意点
業務委託には、労働基準法(働く人を守る法律)が適用されません。最低賃金も残業代も有給も労災もない世界です。だからこそ、単価は「雇われより高め」が大前提。報酬額・キャンセル時の扱い・事故の責任は、契約書で必ず確認してください。
個人事業主になる手続き3ステップ
ここからは実際の手続きです。やることは3つだけです。
ステップ1:開業届を書く
開業届の正式な名前は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。国税庁のサイトから印刷するか、税務署の窓口でもらえます。会計ソフトで質問に答えて自動作成する方法もあります。
主な記入欄はこのとおり。むずかしい欄はありません。
| 記入欄 | 書き方の例 |
|---|---|
| 納税地・氏名・マイナンバー | 自宅の住所と自分の情報を書く |
| 職業 | 「訪問介護サービス業」「生活支援サービス業」など実態に合わせて |
| 屋号(お店の名前のようなもの) | 空欄でOK。「ケアサポート○○」のように付けてもよい |
| 開業日 | 事業を始めた日。仕事を請け始めた日でOK |
| 事業の概要 | 「高齢者向けの保険外生活支援サービスの提供」など具体的に |
ステップ2:税務署に出す(費用0円)
書き終えたら、住んでいる地域を担当する税務署へ提出します。方法は3つ。
1. 窓口に持参する(その場で控えに受付印がもらえる)
2. 郵送する(控えのコピーと返信用封筒を同封)
3. e-Tax(ネットで税金の手続きができる国のシステム)で送る
期限は、事業を始めた日から1ヶ月以内が原則です。ただし、遅れても罰則はありません。すでに稼ぎ始めている人も、今から出せば大丈夫です。
控えは大切に保管してください。たとえば、事業用の銀行口座づくりや保育園の就労証明で、「開業の証明」として使う場面があります。
ステップ3:青色申告承認申請書もセットで出す
開業届と一緒に出してほしい紙が、青色申告承認申請書です。青色申告とは、確定申告(1年分の収入を税務署に報告する手続き)のやり方のひとつ。帳簿(お金の出入りの記録)をきちんとつける代わりに、税金の優遇が受けられます。
最大のごほうびが青色申告特別控除です。もうけから最大65万円を差し引いた金額で税金を計算できます(e-Taxでの申告などの条件つき)。課税される金額が、まるごと65万円小さくなるイメージです。
期限は原則、青色申告をしたい年の3月15日まで。その年の1月16日以降に開業した人は、開業日から2ヶ月以内です。開業届と同じ日に出してしまうのが、いちばん確実でラクです。
帳簿と聞くと身構えますが、今は会計ソフトに売上と経費を入力すれば、青色申告の書類まで自動で作れます。開業届の作成から確定申告まで、無料で使えるソフトもあります。
税金と保険はどう変わる?(副業か専業かで大違い)
開業後のお金まわりの変化を見ていきます。「雇われたまま副業」か「辞めて専業」かで、変化の大きさがまったく違います。
所得税:「売上−経費」のもうけに、自分で申告して納める
個人事業のもうけ(事業所得)は、確定申告で自分から申告します。押さえるのは次の2点です。
- 雇われたまま副業でやる場合、副業の所得が年20万円を超えたら確定申告が必要
- 20万円以下なら所得税の申告は不要。ただし住民税の申告は金額に関係なく必要
経費にできるのは、仕事のために使ったお金です。たとえば、次のようなものです。
- 訪問先までのガソリン代・電車代
- 仕事用のスマホ代・通信費の一部
- 損害賠償保険(仕事中の事故に備える保険)の保険料やチラシ代
住民税:確定申告をすれば自動で計算される
住民税(前年の収入に応じて市区町村に払う税金)は、確定申告の内容をもとに自動で計算されます。職場に知られたくない人向けの「自分で納付」の方法と限界は、副業の記事で解説しています(介護職の副業おすすめ8選)。
保険と年金:専業になったときだけ大きく変わる
| 雇われたまま副業開業 | 辞めて専業になる | |
|---|---|---|
| 健康保険 | 職場の社会保険のまま | 国民健康保険へ(保険料は前年の所得に応じて変動) |
| 年金 | 厚生年金のまま | 国民年金へ(月およそ17,000円前後 ※2026年度時点) |
| 傷病手当金(病気で休むときのお金) | ある | ない |
雇われたまま副業で開業する分には、保険も年金も何も変わりません。 開業届で手取りが急に変わる心配はないので、安心してください。
一方、退職して専業になると、国民健康保険と国民年金に自分で加入します。一般に、厚生年金より将来の年金は少なくなり、傷病手当金もありません。この保障の薄さは、独立を決める前に必ず頭に入れておきたい点です。
青色申告65万円控除は「本格的に稼ぐ人」ほど効く
たとえば、事業のもうけが年100万円なら、控除を満額使えれば課税のもとは35万円まで下がります。所得税だけでなく、住民税や国民健康保険料の計算にも効く、強力な仕組みです。
メリット・デメリットを正直に比較
よい面だけ並べても信用できないと思うので、両方を正直に並べます。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 経費+青色申告65万円控除で節税できる | 帳簿づけと確定申告の手間が増える |
| 時間・単価・仕事内容を自分で決められる | 収入が不安定。有給・残業代・労災がない |
| 屋号で活動でき、保険外サービスの信頼づくりに役立つ | 専業になると国保・国民年金になり保障が薄い |
| 定年がなく、介護の経験がそのまま資産になる | ローンやクレジットカードの審査で不利になることがある |
| 費用0円・紙1枚で始められる(やめるときも届出1枚) | 失業保険がもらえなくなる場合がある |
特に注意したい3つの落とし穴
① 開業届を出すと、失業保険がもらえなくなる場合がある
失業保険(雇用保険の基本手当。退職後、次の仕事が決まるまで支給されるお金)は、「仕事を探している人」のための制度です。開業届を出すと「事業を始めた人=失業状態ではない」とみなされ、受け取れなくなったり止まったりする場合があります。
たとえば、「退職して、失業保険をもらいながら開業準備をしよう」という計画は要注意。開業届を出す前に、必ずハローワークへ相談してください。条件を満たすと「再就職手当」という別の給付に切り替わる場合もあります。
② 家族の扶養に入っている人は、扶養の条件を確認
配偶者の社会保険の扶養に入っている人は、事業のもうけが増えると扶養から外れることがあります。基準は健康保険組合ごとに違うので、開業前に配偶者の勤め先で確認しておくと安心です。
③ 副業として開業するなら、就業規則の確認が先
開業届を出しても、税務署から職場へ連絡がいくことはありません。一方で、職場の就業規則(働き方のルールをまとめた文書)で副業が制限されていることはあります。確認の手順や「バレる仕組み」は、副業の記事へ(介護職の副業おすすめ8選)。
収入モデルケース:「雇われ+個人事業」の二刀流
数字のイメージがわくように、モデルケースをひとつ(金額は本文の相場からの試算です)。
Bさん(38歳・訪問介護ヘルパー)の場合
- 平日の昼: 登録ヘルパー(雇用・パート)として働く → 給与
- 土曜+平日の夕方: 個人事業として、保険外の自費サービス(通院付き添い・家事・見守り)を時給2,500円で提供 → 事業の売上
保険外サービスが月40時間なら、売上は40時間×2,500円=月10万円。ガソリン代や賠償保険などの経費を月1万5,000円とすると、もうけは月8万5,000円。年でおよそ102万円の事業所得になります。
同じ10万円を時給1,500円のバイトで稼ぐには、月67時間ほど必要です。単価を自分で決められる個人事業なら、40時間ですみます。「働く時間を増やす」のではなく「1時間の値段を上げる」。これが個人事業主の稼ぎ方の軸です。
ここに青色申告特別控除(最大65万円)が加わると、課税対象の金額を大きく減らせます。給与だけでは使えない、個人事業主ならではの仕組みです。
補足です。保険外の時給は2,000〜3,000円程度が一つの目安。高すぎれば選ばれず、安すぎれば消耗します。また、勤め先の利用者さんとの直接契約はトラブルのもと。集客は自分の看板で行いましょう。
よくある質問
まとめ:開業届は「独立の覚悟」ではなく「選択肢のチケット」
最後に、この記事の要点です。
- 個人事業主になる手続きは開業届1枚・費用0円。事業開始から1ヶ月以内が原則(遅れても罰則なし)
- 雇われたまま「副業個人事業主」になれる。専業にならない限り、保険・年金はそのまま
- 出すなら青色申告承認申請書もセットで。最大65万円の控除が使える
- 単発バイトアプリは給与。事業になるのは業務委託・保険外サービスなどの収入
- 退職前後の人は、失業保険との関係だけは先にハローワークで確認を
開業届は、退職の宣言ではありません。「雇われて働く」と「自分で稼ぐ」の両方を持つための、選択肢のチケットのようなものです。介護の経験は、あなたが思っているよりずっと、雇われの外でも通用します。
まずは無料の会計ソフトで、開業届を1枚作ってみるところから。書類が手元にできると、「自分の名前で働く」ことが急に現実的に見えてきます。
- 収入がいくらになったら開業届を出すべきですか?
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「いくら以上なら提出」という決まりはありません。目安は、業務委託や保険外など「雇われない収入」が今後も続きそうかどうか。続くなら、青色申告の節税が使えるぶん、早めに出すほうが有利になりやすいです。
- 単発バイトアプリの収入も、開業すれば売上にできますか?
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できません。アプリの単発バイトは1日ごとの雇用契約なので、収入は給与です。開業届を出しても扱いは変わりません。事業の売上になるのは、業務委託や保険外サービスなど「雇われない契約」の収入だけです。
- インボイス制度への登録は必要ですか?
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インボイスは、消費税に関する請求書のルールです。年間売上1,000万円以下なら、消費税を納めない「免税事業者」のままでよいケースが多いです。ただし取引先が事業者(会社や事業所)の場合は、登録を求められることがあるので、契約前に確認を。
- 資格がなくても、保険外サービスで開業できますか?
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保険外の家事支援や話し相手などは、法律上は資格がなくても始められます。ただし、体に触れる介助は事故のリスクが高い仕事です。初任者研修(介護の入門資格)以上の資格と、損害賠償保険への加入が現実的な最低ライン。なお、介護保険のサービス自体は、指定を受けた事業所でなければ提供できません。
- 国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
- 国税庁「青色申告制度」(青色申告特別控除)
- 国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」(20万円ルール)
- 日本年金機構「国民年金保険料」
- ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
- 国税庁「インボイス制度の概要」
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