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認知症のBPSD(行動・心理症状)とは?種類と対応の考え方

# 認知症のBPSD(行動・心理症状)とは?種類と対応の考え方

「さっきまで穏やかだった利用者さんが、急に怒り出して戸惑った」「『家に帰る』と言って玄関に向かう方に、どう声をかければいいか分からない」——そんな場面にぶつかって、「BPSD 対応」と検索してこのページにたどり着いた方も多いと思います。

その戸惑いは、あなたの力不足ではありません。認知症のある方の言葉や行動には、必ず理由があります。ただ、その理由が見えにくいだけです。理由が見えると、対応の糸口はぐっとつかみやすくなります。

この記事では、認知症のBPSD(行動・心理症状)とは何かを、やさしく解説します。記憶障害などの中核症状との違いから、種類・背景・対応の考え方まで、はじめての方でもわかるようにまとめました。読み終わるころには、「まず何を見て、どう関わればいいか」の土台ができているはずです。

なお、この記事は現場での関わり方の話です。認知症の診断や薬の判断は医師の役割で、介護職は「環境」と「関わり」で支える立場です。この線引きは記事の中でくり返しお伝えします。

悩む介護士

認知症の方の徘徊や暴言に、どう向き合えばいいの?対応が難しくて…。

ケアワーカーハブ編集部

BPSDは「不安のサイン」です。背景を探り、環境と関わりで支える考え方をお伝えしますね。

目次

結論:BPSDは「本人の不安や不快のサイン」。まず背景を探る

最初に結論からお伝えします。

BPSDとは、認知症にともなって現れる「行動・心理症状」のことです。不穏(そわそわして落ち着かない状態)や、暴言、帰宅願望などがこれにあたります。大切なのは、これを「困った行動」ではなく、本人が発している不安や不快のサインととらえることです。

対応の考え方は、次の3つに集約されます。

  • BPSDは症状であって、本人の性格や意地悪ではない。 まず「困っているのは本人のほう」と視点を切りかえる
  • 行動には必ず背景(きっかけ)がある。 「なぜ今それが起きたか」を探るのが対応の出発点
  • 変えられるのは環境と関わり。 診断や薬は医師にゆだね、介護職は生活の場を整えることで支える

この3つを土台にすると、「どう抑えるか」ではなく「どう安心してもらうか」を考えられるようになります。それがBPSDへの対応の芯になります。それでは、順番にくわしく見ていきましょう。

中核症状とBPSD(周辺症状)の違い

認知症の症状は、大きく2つに分けて考えると整理しやすくなります。「中核症状」と「BPSD(周辺症状)」です。まずこの違いをおさえましょう。

中核症状とは「脳の変化から直接くるもの」

中核症状とは、認知症によって脳がダメージを受けたことから、直接的に起こる症状のことです。認知症のある方には、程度の差はあっても共通して見られます。

代表的なものは次のとおりです。

中核症状かんたんな説明現場での例
記憶障害新しいことを覚えておけない、思い出せないさっき食事をしたことを忘れる
見当識障害今の日時・場所・人が分からなくなる今が朝か夜か分からない
理解・判断力の低下物事を筋道立てて考えるのが難しい手順の多い作業が進められない
実行機能の障害段取りを立てて行動するのが難しい服を着る順番が分からない

これらは脳の変化そのものから来るため、関わり方だけでなくすことはできません。ただし、後で説明するように、周りの環境を整えることで「困りごと」を小さくすることはできます。

BPSD(周辺症状)とは「まわりの状況から現れるもの」

一方のBPSDは、中核症状を土台に、本人の性格・体調・環境・人との関わりなどが影響して現れる症状です。「周辺症状」とも呼ばれます。

たとえば、記憶障害(中核症状)で「財布をしまった場所を忘れる」ことは、脳の変化から直接きます。ところが、それが「盗まれた」という思い込み(BPSD)にまで発展するかどうかは、状況しだいです。本人の不安の強さや、周りの対応で変わってきます。

ここが最大のポイントです。中核症状は避けにくいけれど、BPSDは環境と関わりしだいで、和らげたり、そもそも起きにくくしたりできるのです。だからこそ、介護職の関わりが大きな意味を持ちます。

2つの関係を図でイメージする

言葉だけだと分かりにくいので、関係を整理します。

  • 中核症状=土台(脳の変化から直接くる。記憶障害など)
  • BPSD=その上に、不安・体調不良・落ち着かない環境などが重なって現れる(暴言・徘徊など)

つまりBPSDは、「中核症状」と「そのときの状況」の掛け算で出てくると考えると分かりやすいです。状況の側は、私たちの関わりで変えられます。ここに希望があります。

認知症そのものの基本や関わりの全体像は、認知症のある方への対応の基本の記事でもやさしくまとめています。あわせて読むと理解が深まります。

BPSDの主な種類

BPSDには、行動として表に出るものと、心の中で起きるものがあります。ここでは現場で出会いやすいものを紹介します。「こういう形で表れることがある」という地図として読んでください。すべての方に必ず出るわけではありません。

行動として表れるBPSD

徘徊(はいかい)

落ち着かず歩き回る状態です。ただ「あてもなく歩く」のではありません。本人には「トイレを探している」「仕事に行こうとしている」などの目的があることがほとんどです。

不穏(ふおん)

そわそわして落ち着かない状態のことです。夕方に強まる方も多く、これは「夕暮れ症候群」と呼ばれることもあります。

暴言・暴力(こうげき的な言動)

大声を出したり、手が出たりする状態です。多くは「怖い」「痛い」「急かされた」といった不快や恐怖への反応で、本人も好んでしているわけではありません。

介護抵抗(ケアの拒否)

入浴やおむつ交換などのケアを嫌がる状態です。「なぜ服を脱がされるのか分からず怖い」など、本人の理解が追いつかない不安が背景にあることが多いです。

帰宅願望(きたくがんぼう)

「家に帰りたい」と訴える状態です。今いる場所が施設だと分からず、不安で「安心できる場所(=家)」を求める気持ちの表れであることが多いです。

収集(ためこみ)や弄便(ろうべん)

物をためこんだり、便を触ってしまったりする行動です。不快感を自分で処理しようとした結果であることもあり、責める対象ではありません。

心の中で起きるBPSD

不安・焦り

「ここはどこ」「これからどうなるのか」が分からず、常に落ち着かない状態です。多くのBPSDの根っこにある感情でもあります。

妄想(もうそう)

事実と違うことを強く思い込む状態です。中でも「物を盗られた」という物盗られ妄想は多く、身近な家族や職員が疑われやすい傾向があります。

幻覚(げんかく)

実際にはないものが見えたり聞こえたりする状態です。「そこに人がいる」などと訴えることがあります。

抑うつ・意欲の低下

気分が落ち込み、何もする気になれない状態です。表に出にくいぶん、見過ごされやすいBPSDです。

睡眠の乱れ・昼夜逆転

夜に眠れず、昼に眠ってしまう状態です。生活リズムの乱れが、他のBPSDを強めることもあります。

「せん妄」との違いに注意

よく似た言葉に「せん妄」があります。せん妄とは、体調不良や薬、環境の変化などがきっかけで、急に意識がぼんやりし、混乱する状態のことです。

BPSDが比較的ゆっくり現れるのに対し、せん妄は「今日だけ急におかしい」という形で、短時間で強く出るのが特徴です。せん妄の背景には、脱水・感染・便秘・痛みなど、体の不調が隠れていることがあります。

「いつもと明らかに様子が違う」と感じたら、それはBPSDではなくせん妄かもしれません。自己判断せず、すみやかに看護師や医師に報告してください。ここは安全に直結する大切な線引きです。

BPSDは「困った行動」ではなく「不安のサイン」

種類を見てきましたが、いちばん大切なのは受けとめ方です。ここが対応のすべての土台になります。

BPSDを「問題行動」「困った行動」と呼んでしまうと、無意識に「やめさせる」対応になりがちです。でも、視点を本人の側に移すと、景色が変わります。

たとえば「家に帰る」と訴える方は、あなたを困らせたいわけではありません。今いる場所が分からず、不安で、安心できる場所を探しているだけです。つまり困っているのは、私たちではなく本人のほうです。

同じように、ケアを嫌がるのも「なぜこんなことをされるのか分からず怖い」から。暴言も「急かされて怖かった」から。こう考えると、BPSDは言葉でうまく助けを求められない方の、精いっぱいのサインだと分かります。

対応の合言葉は「やめさせる」ではなく「安心してもらう」です。この視点の切りかえだけで、あなたの声かけや表情は自然とやわらかくなります。そして多くの場合、それが本人にも伝わります。

背景を探り、環境と関わりを整える対応

では具体的にどう対応するか。基本の流れは「背景を探る→環境と関わりを整える」です。ここでは4つのステップに分けて説明します。

ステップ1:まず本人の安全と、自分の落ち着きを確保する

強い不穏や興奮があるときは、真正面から止めようとすると、かえって恐怖を強めてしまうことがあります。

  • 本人・周りの人がケガをしないよう、危ない物や段差を確認する
  • 大声で制止せず、こちらは落ち着いた声・ゆっくりした動きを心がける
  • 一人で抱え込まず、必要なら他の職員を呼ぶ

「まず安全、次に安心」。この順番を覚えておいてください。あなた自身が慌てないことも、立派な対応のひとつです。

ステップ2:「なぜ今か」の背景を探る(アセスメント)

落ち着いたら、背景を探ります。これをアセスメント(本人の状態や状況を見立てること)と呼びます。次の視点で「きっかけ」を探すと見つけやすくなります。

探す視点具体的にみること
体の状態痛み・便秘・空腹・のどの渇き・発熱・かゆみはないか
環境暑い/寒い、うるさい、まぶしい、知らない場所ではないか
気持ち不安・さびしさ・退屈・急かされた・自尊心が傷ついたことはないか
関わりこちらの声かけが早口・命令口調になっていなかったか
リズム睡眠不足・トイレのタイミング・薬の時間と関係していないか

たとえば「夕方になると決まって不穏になる」なら、時間帯に共通する何か(空腹、疲れ、帰宅時間の記憶など)が隠れています。「行動」ではなく「そのとき何があったか」を記録すると、パターンが見えてきます。

ステップ3:環境と関わりを整える

背景の見当がついたら、変えられるところから整えます。診断や薬ではなく、私たちが手を出せる「環境」と「関わり」が対応の中心です。

  • 環境を整える:まぶしさ・騒音・寒暖を調整する。トイレの場所を分かりやすく示す。なじみの物(写真・愛用品)を近くに置く
  • 関わりを整える:目線を合わせ、ゆっくり短い言葉で話す。否定せず、まず気持ちに共感する(「帰りたいですよね」)。せかさず、選んでもらう
  • 役割・楽しみをつくる:洗濯物たたみなど「できること」をお願いする。好きな音楽や活動で気持ちを切りかえる

「帰宅願望」への対応を例にすると、「ここが家ですよ」と正すのではなく、「そうですよね、心配ですよね。お茶でも飲んでから一緒に考えましょう」と、まず気持ちに寄り添って、そっと別の話題に移していく——これが現場でよく使われる関わり方です。気持ちをそらすこうした関わりを持っている方は、認知症のある方の心を落ち着けやすくなります。

ステップ4:試して、記録して、チームで振り返る

対応は一度で正解が出るとは限りません。「試す→記録する→振り返る」をくり返すことが大切です。

うまくいった声かけ、逆効果だった対応を記録に残すと、次に活きます。そして「Aさんは右から声をかけると落ち着く」といった発見は、あなた一人の中にとどめず、チーム全体で共有してください。関わり方をそろえることが、本人の安心につながります。

こうした背景を探り、関わりを工夫する力は、認知症介護実践者研修認知症介護基礎研修で体系的に学べます。研修で「なぜそうするのか」を知ると、日々の対応に自信が持てるようになります。

「その人を中心に」考えるパーソン・センタード・ケア

ここまでの考え方の土台になっているのが、パーソン・センタード・ケアという考え方です。むずかしそうな名前ですが、意味はシンプルです。

パーソン・センタード・ケアとは、「症状」ではなく「その人」を中心にすえて関わるという考え方です。「認知症の人」とひとくくりにせず、「〇〇が好きで、こういう人生を歩んできた、この方」として向き合います。

たとえば同じ「入浴拒否」でも、背景は人それぞれです。人前で裸になるのが恥ずかしい方もいれば、昔つらい経験があってお湯が怖い方もいます。その人の歴史や好みを知ると、「この方には脱衣所を暖めて、慣れた職員が付こう」といった、その人だけの答えが見えてきます。

BPSDへの対応にマニュアルの正解はありません。でも、「この行動の奥にいる、この人の気持ちは何だろう」と想像し続ける姿勢——それがパーソン・センタード・ケアであり、どんなテクニックよりも効く土台になります。

診断・薬物治療は医師の役割。介護職は生活で支える

大切な線引きをあらためて確認します。介護職にできること・できないことをはっきりさせておくと、安心して働けます。

認知症の診断や、薬を使うかどうかの判断は、医師の役割です。 介護職が「これは認知症だ」「この薬が合っていない」などと判断・発言することはしません。それは私たちの仕事の範囲を超えています。

では介護職の役割は何か。それは、生活の場を整え、日々の関わりで安心を届けることです。医師が診断や治療を担うなら、私たちは「その人がその人らしく暮らせる時間」を支える担当です。役割が違うだけで、上下はありません。

そのうえで、介護職には大切な仕事があります。それは観察して、正しく伝えることです。「いつ・どんな状況で・どんな様子だったか」を具体的に記録し、看護師や医師に報告する。この情報が、医師の適切な判断を支えます。

  • 「最近怒りっぽい」ではなく「昨日と今日、入浴前に大声を出した」と具体的に
  • 「急に別人のように混乱した」など、いつもと違う変化はすぐ看護師へ(せん妄の可能性)
  • 薬が出ている場合、飲んだあとの様子(眠気・ふらつきなど)も観察して伝える

診断や治療は医師、生活と観察は介護職。この役割分担を意識すると、「自分が何とかしなきゃ」と一人で抱え込まずにすみます。

チームで支える:一人で抱え込まない

最後に、いちばん強調したいことをお伝えします。BPSDへの対応は、決して一人で背負うものではありません。

BPSDは、時間帯や関わる人によって表れ方が変わります。だからこそ、あなた一人の頑張りより、チームで情報と関わり方をそろえることが効いてきます。

  • 申し送りやカンファレンス(職員が集まって話し合う場)で、背景と有効だった対応を共有する
  • 対応がうまくいかず苦しいときは、先輩やリーダーに率直に相談する
  • 看護師・ケアマネジャー・家族とも連携し、多くの目で本人を見る

対応がうまくいかない日があっても、それはあなたのせいではありません。認知症のある方の状態は日々ゆらぎます。「今日はうまくいかなかった。明日は別の方法を試そう」——そう思える余白を、自分にも許してあげてください。

介護職が疲れ切っていると、どうしても関わりに余裕がなくなります。あなた自身が心と体を守ることも、めぐりめぐって本人のためになります。ここは忘れないでほしい点です。

よくある質問

まとめ:「困った行動」を「不安のサイン」と読みかえる

最後に、この記事の要点をまとめます。

  • BPSDは認知症の「行動・心理症状」。中核症状(記憶障害など)とは違い、環境と関わりで和らげられる
  • 種類は不穏・徘徊・暴言・妄想・介護抵抗・帰宅願望など。すべて本人の不安や不快のサイン
  • 対応の基本は「やめさせる」ではなく「安心してもらう」。背景を探り、環境と関わりを整える
  • 診断・薬は医師の役割。介護職は生活で支え、観察して正しく伝える。一人で抱え込まずチームで

BPSDへの対応に、たった一つの正解はありません。でも、「この行動の奥にいる、この人の気持ちは何だろう」と想像し続けること——その姿勢が、いちばん確かな道しるべになります。

戸惑う日があっても大丈夫です。あなたが「なぜだろう」と考えたその時点で、対応はもう始まっています。今日からできる小さな一歩を、無理のない範囲で重ねていきましょう。

BPSDと中核症状の違いを一言でいうと何ですか?

中核症状は「脳の変化から直接くる症状」(記憶障害など)で、なくすのは難しいものです。BPSDは「そこに不安や環境が重なって現れる症状」(暴言・徘徊など)で、環境と関わりで和らげられる可能性があります。「土台が中核症状、その上に状況が重なって出るのがBPSD」と覚えると分かりやすいです。

帰宅願望のある方に「ここが家ですよ」と正すのはダメですか?

正論で説得しても、本人の不安はかえって強まりやすいです。今いる場所が家だと分からず不安になっているので、まずは「帰りたいですよね」と気持ちに共感してください。そのうえでお茶に誘うなど、そっと安心できる流れに切りかえるのが現場でよく使われる関わり方です。うそをつくのとは違い、気持ちに寄り添う対応です。

暴言や手が出てしまう方には、どう対応すればいいですか?

まず自分と周りの安全を確保し、真正面から制止しないことが大切です。多くは「怖い」「急かされた」「痛い」といった不快への反応です。落ち着いた声とゆっくりした動きで距離を保ち、一人で対応せず他の職員を呼んでください。落ち着いたあとに「何が引き金だったか」を記録し、チームで共有すると次に活きます。

BPSDは薬で抑えるものですか?介護職が薬を勧めてもいいですか?

薬を使うかどうかの判断は医師の役割で、介護職が勧めたり判断したりすることはしません。介護職の役割は、環境と関わりで本人の不安を和らげ、様子を正しく観察して看護師や医師に伝えることです。まず環境と関わりを整えるのが基本で、薬はあくまで医師が総合的に判断するものと覚えておいてください。

どう対応してもBPSDが落ち着かず、自分を責めてしまいます。

うまくいかない日があるのは、あなたの力不足ではありません。認知症のある方の状態は、体調や環境で日々ゆらぎます。大切なのは一人で抱え込まないことです。先輩やリーダーに相談し、チームで関わり方をそろえてください。あなた自身の休息を確保することも、立派な対応の一部です。

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